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それはもちろん、自分には背負うべき役目があるとわかっていたからだ。学生時代に思う存分自由な時間を満喫した一智は、誰に指図されるまでもなく家業を引き継ぐために野球を捨てた。
そんな息子の信念を理解していた両親は、私生活について口うるさいことを言わなかった。だから、銀座のクラブで働く佐々木満ちると結婚したいと告げた時も、特に反対はしなかったのだ。
「デュ・ミエィル」の経営さえ安定していれば文句を言わなかったが、察しの良い母・富美子は満ちるの別の顔に気づいていたらしい。
前社長の父が亡くなりますます仕事に追われるようになると、自然と夫婦で過ごす時間が減っていった。満ちるには寂しい思いをさせて申し訳ないと思っていたが、夫の目が届かないことを幸いに羽を伸ばしていたようだ。サークルのコンパだ、パーティだと大学生活を満喫していたらしい。
夫婦関係の修復のため富美子が旅行や外出を提案してみても、満ちるは気乗りしない様子で無視を決め込んだいた。それなのに、夫ではない相手と海外語学研修と称し、フィリピン・セブ島に出かけたこともあった。
その頃からだろうか、一智も満ちるが思っていたような女ではなかったと感じ始めているようになっていた。
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