一智と千秋

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 子供の頃の経験からと本人は言っているが、満ちるは金への執着心が人一倍強かった。だが、他人の金は使っても痛くも痒くもないのか、結婚を機に作ったクレジットカードを湯水のように使う有様だ。  それどころか、一智が何度注意しても浪費癖を直そうとはしなかった。  どちらかというと温和な一智だが、とうとう堪忍袋の緒が切れた。怒りに身を任せ離婚をするか、それとも今までの行動を改めてやり直すか、二つに一つの選択を満ちるに迫ったのだ。  結局、満ちるは夫婦仲の修復を選んだ。二度目のハネムーン旅行と銘打って二人はハワイへと出かけ、その後に彼女は妊娠した。一智は妻の妊娠を心から喜んだが、肝心の満ちるはマタニティブルーだと言ってふさぎ込んだままだった。  そして、長女くる美が生まれて二人は幸せなはずだった。ところが、子は(かすがい)のはずが、それから夫婦仲は更に険悪になっていく。  娘の育児をベビーシッターに任せて、満ちるは公然と遊び歩くようになったのだ。しかも、浮気相手に一智の従兄弟彬夫を選ぶという残酷な真似までして。  それだけは忘れてはならないと思いつつ、今の満ちるに惹かれる自分が一智は情けなかった。
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