一智と千秋

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――それならば、このまま満ちるに成りすまして、一生を終えても良いのではないか?  浅はかにもそんな風に考えてしまう己が哀れだが、飯島家での生活は快適で素敵な夫に可愛い娘までいる。  夫に先立たれ、誰かにすがりたいと望んでいた未亡人の前に現れた一智は、またとない好人物だった。  気にならないといえば嘘になる。かつて淡い恋心を抱いた憧れの人だ。絶えず一智の存在を意識して、自然と彼の姿を目で追ってしまう。  だが、今の自分は一智を利用しているようで、どこか後ろめたい気分にもなっている。 優しくされると嬉しいが、これは満ちるに向けられたものだと気付くと虚しくなる。  これでは満ちると自分は同じ穴あのムジナだ。快適な生活に慣れ親しめば、手放したくなくなってくる。そんな私を一智が受け入れてくれるはずがない。  計算高い女だと軽蔑されるのがおちだろう。いち早く真実を彼に伝えなければいけないが、何故かその勇気が湧いてこなかった。  ある晩、悪夢にうなされる千秋が、夫であるジャンカルロを求め泣いていた。 「……い、いや……行かないで」 「……ここにいるよ、満ちる。大丈夫だ、何も怖がることはない」
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