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暗闇の中でしがみついた確かな温もりに千秋は安堵した。亡くなったはずの夫ジャンカルロが私の元に帰ってきてくれたのだ。夢うつつにそんなことを考え、やがて深い眠りについた。
そして、翌朝――
千秋 はベッドの隣に眠る、飯島一智の姿を見て驚いた。暗闇で自分を救ってくれたのは、ジャンカルロではなく一智だったのだ。
「おはよう」
一智も目が覚めたらしく、親しげに声をかけてきた。昨晩の自分の行為を思い返すと急に恥ずかしくなり、千秋はいたたまれないような気分になっていた。
「昨晩は僕にしがみついてきたのに、あれは誰かと勘違いしたようだな」
彼女の態度を誤解したようで、冷たい捨て台詞を残し一智はベッドから起き上がった。確かに彼が言った通り、千秋は一智を亡き夫だと思い込んだ。
だが、それは意図的なものではない。どんな言い訳をしても彼には理解してもらえないが、決して一智を傷つけるつもりはなかった。
――ごめんなさい、一智さん。
寝室から出ていく寂し気な一智の後姿を見つめながら、千秋は心の中で詫びを告げた。親友の夫がいつしか心の拠り所になっていた。だが、それは決して許されない現実だった。
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