満ちる

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 ところが、親友の転校を喜んだのも束の間、佐々木満ちるの人生に大きな影が差す出来事が起きた。成功していたと思えた輸入家具店の経営が、実は火の車だったのだ。  今回ばかりは年老いた母方の祖父母もお手上げ状態で、もう尻拭いはできないと匙を投げた。満ちるの父親は今まで祖父母におんぶにだっこの状態で、己の力で困難を乗り越えようと努力をしてこなかった。そのツケが今頃になって回り回ってきたのだ。  金策に走る両親の努力も虚しく、遂に輸入家具店は閉店に追い込まれた。それなのに、父だけでなく母までも何とかなるさとあっけらかんとしている。  それから、親子三人は逃げるように六畳一間の古いアパートに引っ越した。父親は無責任にも授業料は払えないから、高校を卒業したければ自分で稼げと冷たく言い放った。 「倒産したから貧乏生活ってわけじゃないわよ。最後にはきっとお祖父ちゃんが救ってくれる。それまで満ちるもバイトして、頑張ってちょうだい」  その陰で母親はこんな風に声をかけたが、何の気休めにもならなかった。 「夫の夢を叶えるのが私の夢だ」  母はそう公言していたが、ろくでなしの父親に叶えたかった夢など本当にあったのだろうか?  何度失敗しても祖父母の助けをあてにして、両親は自分たちの力で乗り越えようという素振りもしない。この二人の下にいたら、明るい未来など望むことはできないだろう。  最悪の状態に追い込まれた満ちるに、今度はまた別の転機が待っていた。
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