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もはや野良仕事などしている暇はない。先祖から受け継いだ田んぼは耕作放棄。つゆに栄養をつけさせ、脅しすかして機を織らせるだけでは埒が明かない。原料も足りなければ織り手も足りない。じさまは与ひょうに金を渡して狩人団を結成させ、国中で鶴を狩らせた。獲った獲物は羽根と肉に仕分けして納品させた。その羽根のお陰で、つゆはもう自分の身を削って原料を提供する必要はなくなった。肉のほうはじさまたちが食うばかりでなく、つゆにも食わせた。共食いであるが、貴重な栄養源を無駄にはできぬ。つゆはみるみる血色がよくなった。
「ただし、与ひょうよ、わしの田の周辺では鶴は決して殺してはならんぞ、ちょっとだけ傷をつけて翔べないようにするんだ、いいな」
「合点承知」
そうして、与ひょうたちがちょっとだけ傷つけて落とした鶴があると、じさまはすぐに駆けつけて矢を抜いてやり、
「おお、可哀想に、さぞや痛かったであろう。これでもう大丈夫じゃ。今度は無事に山に帰れよ。人間の射た矢に掛かるなよ」
と、優しく声を掛けた。翌日、若い娘のなりをして礼を言いに来た鶴には、ばさまがご馳走責めにもてなして、泊まっていくように勧め、建て増した小屋に放り込んで監禁した。
「一生懸命に布を織るのじゃぞ。さすれば悪いようにはせぬ。毎日鱈腹ご馳走を食わせるけぇ。織らなければお前が焼き鳥になるんじゃぞえ」
ばさまがこの台詞に慣れるのに、さほどの時間は掛からなかった。
こうして原料確保にも目途が立ち、織り手も増えた。じさまが発注してあった新しい織機も続々と納品され、新築の小屋に収まっていった。昔からあった古い織機は、縦糸が床に対して水平に張られる、いわゆる水平機であったが、新しく導入したのは最新式の縦型の織機である。
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