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こうして、じさまとばさまの事業は順風満帆に思えたのじゃ。ところが。じさまたちの羽振りのよさにあやかろうと、隣村でも同じ千羽織を売り出す同業他社が出現。その「うんず&そうど織物カンパニー」は、JA百姓共済より巨額の融資を受け、より大規模に千羽織生産を始めていた。じさまは百姓共済の担当者に抗議したが、にべもない対応をされたんじゃ。
「じさまだけを特別扱いする理由はないけえ」
「そうはいっても、競合する業者が増えれば、こっちは利益があがらんのじゃ。おたくさんも貸し倒れの危険が増すじゃろ? 違うけ?」
「なあに心配には及ばんよ。ちゃんと融資の際には担保を取ってあるけえ、あんたの土地、財産を差し押さえるだけのことじゃ」
「あ、あんた、最初からワシを潰す気で」
「そげな言われようは心外じゃのう。資本主義経済は弱肉強食が基本じゃけえ。競争力のない企業に市場から撤退してもらうんは、いわば理の当然。違うけえ?」
業者の増加、千羽織生産量の増大に伴い、国中の鶴の生存数も急速に減少。絶滅寸前の状況に。競合業者は遠くの国からも鶴をかき集める強引な手法で、さらに生産量を増やした。
千羽織は市場に溢れた。希少性はなくなり、相場も急落した。利益は上がらず、「つるのおんがえし株式会社」の未来に暗雲が立ち込めた。
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