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そんな危機の中でも、じさまは明の国から最新式の空引機という織機を取り寄せて、研究を怠らず、起死回生を目論んでおったのじゃが……止めを刺したのは、従一位太政大臣足利義義その人であった。義義は、勘合貿易で明の国から千羽織の類似商品を大量に輸入し、京の呉服問屋に売り捌かせた。義義は巨額の利益を手にしたが、千羽織は貴人の独占物ではなくなり、誰もが買える安物に成り下がり、レア物感は完全に失われたんじゃ。
こうして鶴の千羽織の一大ブームは僅か数年で終焉し、じさまの倉庫には、売れるあてのない大量の在庫が残ったのじゃ。
「つるのおんがえし株式会社」は倒産した。同業他社も同じような道をたどった。
失業した鶴たちには、野生に帰るもよし、残って野良仕事の手伝いをするもよし、と伝えた。つゆ以外の鶴たちは故郷の山へと帰っていった。
じさまは百姓に戻る気はなかった。数年の間に荒れ放題に荒れた田を元通りにする気力は既になかった。
幸い、ブームの間に溜め込んだ金はまだまだ残っていた。美しいつゆ(製造部長になると同時にじさまの愛人の座にも収まっておった)と二人、南国のリゾート地で楽しく暮らそうと目論んだじさまは、ばさまに毒を盛って殺して埋めた。しかし、その直後に、じさまも謎の心臓発作でこの世を去った。つゆが毒を盛ったのだとも、ばさまの祟りだとも言われている。
独り、家に残ったつゆは、誰か適当な男でも婿にとって家を継ごうかとも考えたが、結局やめにした。田は荒れ果て、千羽織も売れない。この家に残っても仕方がない。人のなりをして、人と暮らすことにも飽き飽きじゃった。
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