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「せっかく鶴を射ておいて、捕獲しないで放置しておくとは、いかなる了見か。あのバカのこと、きっと何かに気を取られて、鶴のことを忘れてしまったに違いない」
その晩遅くのことじゃった。飯を済ませ、寝ようとしていると、家の外から「もし、もし。ごめんくださいまし」と若い女の声。
キターッ、と、じさまは内心絶叫。ヲヲ……古キ言ヒ伝ヘハ真デアツタ。急いで扉に駆け寄り開けてみると、案の定、たいそう愛しげな若い娘が立っておった。
「旅のものですが、一晩泊めてはいただけないでしょうか」
「おなごの一人旅とは、さぞお困りでしょう。狭い家ではありますが、さ、中へ早う。一晩とは言わず、何日でも好きなだけ、さささ、どうぞどうぞどぞどぞどぞ」
「ほんに、かたじけのうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
じさまは、ばさまに言って、晩飯の残りの汁を温め直させ、つゆと名乗った若い娘に勧めた。もしやお前様はあの時の鶴ではないか、と尋ねたくてウズウズしたが、うかつなことを言って出ていかれてはかなわぬ。じさまはそしらぬ振りに努めたが、ついつい「つゆ殿は、どちらの生まれかの」
「あの……その……山一つ向こうの……」
「というと隣の村の」
「……はい」
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