つるのおんがえし株式会社

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「隣村に、おまえさまのような愛しげな娘さんがいるとは聞いたことが……ゴホンッゴホンッ……いやいや、それにしても、つる、いや、つゆ殿、以前どこかで会ったことがあるような気がするんじゃが」  娘はハッとして「それはきっと、他人の空似でございましょう」と、目を泳がせた。  その夜は、囲炉裏端に当座の寝床をこさえて、三人、親子のように川の字になって眠ったのじゃ。  翌朝、じさまは、トントントンと包丁で湯がいた青菜を刻む音を聞いて目覚めた。味噌汁のいい匂いもする。見るとあの娘が甲斐甲斐しく台所に立って働いており、ばさまはじさまの横でいびきをかいて寝ておった。娘は、そのあとも何くれとなくばさまの手伝いをし、昼には田んぼのじさまに弁当を持ってきて、田の雑草抜きを手伝った。礼を言って旅に出ていく様子はなかった。  三人で晩飯を囲んでいる時、娘が言った。 「旅のものと申しましたが、実は行くあてもありません。できればこちらに一緒に住まわせてはいただけないでしょうか」  二人にはこどもがなかった。申し出は好都合であった。     
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