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ばさまが娘を布団に寝かせて介抱している間に、じさまは反物をもって、都へと走った。
不案内な都を足を棒にして歩きまわり、じさまはようよう、とあるお役人様の屋敷の家来に、話を聞いてもらえた。家来はじさまの手渡した反物を持って屋敷に入った。門の外で小一時間も待たされたであろうか。やっと帰ってきた家来は、反物の美しさを褒め、じさまに十貫文もの大金を手渡して、もっと作って売りに来るようにと言ったのじゃ。
じさまは、ばさまには京菓子を、自分には伏見の酒を買って帰り、その夜は大儲けを祝って痛飲したのじゃった。
数日後、じさまの家に貴人の使いが訪れた。
「そこな爺よ。先般、織部佑古田道重殿の屋敷に、大層美しい鶴の千羽織を届けたのはお前か」
「へえ。たしかに手前にござりますが」
「拙者は、織手司遠山亀之丞様の使者である。爺、古田殿に届けたのよりも上等な反物を、近日中に当家まで届けるように。殿のたってのご要望じゃ。くれぐれもよろしくたのむ。早急にな」
使いは手付金として五十貫文もの大金を置いていった。嬉しい悲鳴。
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