つるのおんがえし株式会社

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 じさまは途方に暮れた。つゆは再び千羽織が織れるほどに回復はしていない。あんな大金を受け取っておいて千羽織が渡せないとなるとどうなるか。嬉しい悲鳴は単なる悲鳴に変わったのじゃ。  じさまは文字通り命がけでつゆを看病した。米の飯を腹いっぱい食わせ、川で鮎を釣ってきては食わせ、近所の猟師からイノシシの肉を分けてもらって鍋にして食わせた。  ようやっと回復した娘は、再び織機に向かった。こないだのより上等な反物を二(ひき)(=四反)と言われて、最初は「そんなには無理です」と固辞していたつゆも、じさまが床に額を擦り付けて「それが無理じゃとわしの命がないんじゃ」とまで嘆願されては無碍に断ることもできなかった。  つゆは野良仕事も家事も免除されて、ひたすらに機を織り、食って寝て体力(というか羽)の回復に努めたのじゃ。  じさまも必死でそこらじゅうから精のつきそうな食べ物を集めては食わせ、あげくの果てには通販でプロテインをお取り寄せして飲ませ、藁にもすがる思いで、(ミン)の国から養毛剤を個人輸入し、羽が生えますようにと念じながらつゆに飲ませた。     
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