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しかし、南蛮渡来の呪文も、かなしいかな野生動物には通じない。厠で用を足しておったじさまが騒ぎを聞きつけてつゆの小屋に飛び込んだ時、つゆは、いままさに鶴の姿に戻り、飛んで逃げるところだった。鶴は、布を織るために自分の羽を大量に毟って使ってしまったために上手く飛べなかった。じさまとばさまは飛びついて鶴を羽交い締めにした。抵抗虚しく、鶴は囚われの身になった。
じさまは娘の足に鎖をつけて監禁し、無理強いをして機を織らせ続けた。が、一羽の鶴が産する羽根の量には当然限界がある。遠山様から命じられた量の反物は、この調子では到底無理じゃった。
途方に暮れておるところに、千羽織の噂を聞きつけた別の貴族も使者を立てて、ぜひ、その布を売って欲しいと言ってくる。引く手あまたどころではない。宮中も、京のファッション業界も、美しい千羽織の噂で持ちきりじゃった。
噂は殿上人にまで届き、ついには、従二位権大納言山科禁言の使者までが寒村を訪れた。山科様と言えば、宮中の装束全般を取り仕切る大物中の大物官僚。山科様に命じられた反物の量も手付金の額も今までとは桁違いじゃった。
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