6人が本棚に入れています
本棚に追加
「いいと言うまで、絶対に目を開けちゃ駄目ですよ」
「はい、はい、わかってますよ」あまりにも何度も言うので、ちょっとあきれたように答えた。さっき少女がサカキさんを呼びに来たから、何か計画しているに違いなかった。あの子のことなら、きっとわたしにお礼をしたいと思っているはずだ。だとしたら、踊りだろうか。ここは沢田さんの言っていたバレエの稽古場なのかもしれない。そういえば、あの晩も、森野さんが踊りの準備をする間、こうして目を閉じさせられた。
両側に人の気配を感じた。と、その次の瞬間、両側の頬に同時にキスをされた。思わず「おわっ」と驚きの声を上げてしまった。誰にされたのか見たくて目を開きそうになった。
「まだ目を開けちゃ駄目」すかさずサカキさんの声が飛んできた。
「ああ、はい」
左側が少女で、右側がサカキさんであることは、見なくても分かった。二人はわたしの後ろでくすくす笑った。くすくす笑いながら、わたしから離れていった。
「じゃあ、太田さん、目を開けてください」
最初のコメントを投稿しよう!