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言われるままに目を開けた。薄いピンク色をしたバレエの練習着に白いタイツの少女が中央でポーズを取っていた。部屋は卓球台が五つは置けそうな広さで、壁にはぐるっと手すりのようなバーが横に走っていた。やっぱりバレエの稽古場だった。
すぐに曲が始まった。少女が踊り出す。カザルスの演奏するクープランの『悪魔の歌』だった。あの、森野さんらしいと思った、元気のある曲だ。
想像したよりも少女の動きは本格的で鋭かった。カザルスの歯切れのいいチェロのリズムに乗せて、少女は軽やかに動き回った。踊っているときの顔は、今まで見た少女のどの顔よりもずっと大人っぽかった。振り付けは考え抜かれたもののようだった。
カザルスが最後の音を高らかに歌い上げ、一分半ほどの短い曲はあっという間に終わってしまった。少女は最初とほぼ同じ位置でフィニッシュのポーズを決めた。それとほぼ同時にわたしは立ち上がり拍手を送った。ほんのわずかに遅れて、ホワイトハウスの聴衆の盛大な拍手が沸き起った。サカキさんも壁際の音楽装置の前で拍手していた。少女はわたしに向かってバレエ式のお辞儀をした。サカキさんの方にもちょこっと頭を下げた。
CDの拍手が鳴り響く中、早足で少女に近づいた。少し照れている少女の前に片膝を付いた。清々しい顔が目の前にあった。
「すごい。とっても上手だ」
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