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無意識に少女の腕をつかみ、感動を伝えるように小さく揺すっていた。少し汗ばんだ、生命感溢れる幼い皮膚を感じた。
「ありがとう。それから、おじさん。昨日からありがとうございました」
「いや、いいんだ。おじさんも楽しかったし」
「お母さんの真似をして、お礼に踊りました」
「うん。すごい素敵だった」
続けてシューマンの曲が始まった。少女が意外そうな顔をして、サカキさんの方を振り向いた。
条件反射のように全身が小さく震えた。鳥肌が立った。脳の辺りがワサワサした。よく分からない種類の感情が湧き上がってきた。
思わず少女を強く抱き締めていた。とても温かかった。涙が出そうになった。
「おじさん、どうしたの?」
〝一緒に暮らそう〟とか〝おじさんの子どもになってくれないか〟とか、まるでプロポーズのような言葉が喉から出かかった。
言葉を飲み込んだ。「なんでもない」と、わたしは言った。そんな無責任なことは言えないと思った。でも少女を離すこともできなかった。
知らぬ間にサカキさんが近くに来ていた。ひざまずいて少女を後ろからわたしもひっくるめて抱き締めた。わたしの両腕は少女とサカキさんに挟まれた。サカキさんの胸のふくらみを感じた。心地よい匂いに包まれた。
「二人とも変なの」少女の声はまんざらでもなさそうだった。
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