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「むかし、君のお母さんと、この曲で踊ったことがある」
「へえ。おじさんも踊れるの?」
「いや、踊りなんてできないんだけど、あの日は不思議と身体が動いた」
「ふうん。お母さんに無理矢理踊らされたんでしょう? お母さん、ちょっと強引なところがあったから」
「ははは。そうかもしれない。でもすごく楽しかった。ずっと踊っていたいと思った」
「いつか、はるかとも踊ってくれる?」
「うん、もちろん。でも上手く踊れるかどうかわからないよ」
「うん、それでもいい」
いつかっていつのことだろう、と思った。五年後か、十年後か。ずいぶん遠い先のことのように感じられた。やがて疎遠になって、もうその頃には、わたしなんて忘れられてしまっているかもしれない。
「お母さんもこの曲をよく聴いてた。そのときはとってもしあわせそうな顔をしてた。そして、はるか、おいで、って言って、いつも笑顔で抱き締めてくれたんだ。だからわたしもこの曲は大好き」
少女は穏やかに言った。
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