第一部 第二章 五 少女の踊りとプロポーズ?

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「いや、忘れていない。ただ、さっきのはちょっと冗談っぽかったから」 「だって、あのとき真剣な顔で言われたら、おじさん、引いちゃうでしょう?」 「そりゃ、まあ、そうだな。じゃあ、君のお父さんになれるんだね」 「うん」少女ははっきりとした声で答えた。「でも、ひとつだけ条件があるの」 「なに?」 「おじさんが結婚して、奥さんもわたしを子どもにしたいと思ってくれたら」 「結婚……」 「そう、結婚」 「だとしたら、すぐには無理だな」 「そうかなぁ? おじさんだって捨てたもんじゃないから、頑張れば、どうにかなると思うけど」 「いや、でも相手のあることだし、君を子どもにするという前提で結婚してくれるかどうか」 「ずいぶん、自信がないんだ。でも、そのくらい時間をおいて考えた方がいいかもしれないよ。今は一時の気の迷いかもしれないし。お母さんが本当に死んじゃったことがわかって、さっき泣いてくれたんでしょう?」  サカキさんが言ったのか。どうしておんなという生き物はこうおしゃべりなのだろう。でも、この子に知ってもらうことは悪いことではない。  シューマンの曲が折り返し点にさしかかっていた。右肩の辺りが濡れるのを感じた。     
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