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そしてなにより、その美しく伸びやかな踊りは、あの日の森野さんを彷彿とさせ、突然わたしを、記憶の片隅に押し込んでいたあの日に引き戻した。
すべてはあの日に始まったのだ。
見終わったあと、しばらくの間、呆然として動くことができないほどだった。でももうあの日は遠く、森野さんの顔をはっきりと思い出すことさえできなかった。帰りにCDショップに寄ってみたが、曲もダンサーの名前も結局わからずじまいになってしまった。
その数日後、わたしは帰国した。ドイツで手がけていたわたしの研究分野は世界的に見てもまだニッチというべきもので、わたしの研究は当然日本ではほとんど評価されていなかった。それでも海外での研究経験が評価されたらしく、研究員という立場こそ変わらなかったものの、少なくとも待遇面では前よりはずっとよくなって、元の大学の研究所に戻ったのだった。
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