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Side-K③
会いたかった。
そう二回も言ったのに、罰ゲームかってくらい恥ずかしい思いをしたのに、こいつはそれすらさらりと流した。
全然伝わってない。
いや、まあ昔の、しかも男の先輩にそんな事を言われてもどう反応していいやら解らないのは普通だろう。
でも、どうすれば良い?
こいつはこんな俺を余所に、しれっとした表情で腕時計を見ている。
どうしよう、行ってしまう。帰ってしまう。また、いつ来るか解らない。
行くなよ。こっちより向こうの方が大事だって言うのかよ。あんなに喋ったくせに。飯が美味いと喜んでいたくせに。
俺に鞄をぶつけられて、笑っていたくせに。
「帰るな」
涼は呆気に取られた顔をしている。
涼の顔を見ていられなくて俯けば、いつの間に掴んだのか、縋るように涼のシャツの裾を掴む俺の右手があった。
鬱血するほど強く固く掴んだ右手に、伝わるように祈る。
「……っち」
苛立ちを隠さないように舌打ちする涼は、俺の右手を掴むと強引に歩き出した。
「お、おい涼!いてえよ……!」
「黙って下さい」
擦れ違う人達の視線が突き刺さる。明らかに怖がった様子で避けた女の子もいた。こいつ、どんな恐ろしい顔してんだよ。
少し歩いて、併設されているショッピングモールに行こうとしていることに気付いた。
――そんなに東京の奴らに土産買うのが大事なのかよ。
「おい、涼!どこ行くんだよ!」
「黙って下さいって言いましたよね」
「だから」
「煩い、黙ってろ」
有無を言わせない雰囲気に俺は諦念した。土産物のフロアを抜け、着いた先はトイレだった。
駅のトイレと違い、奥まった場所にあるこのトイレはあまり人がいない。中に入ると、一番奥の障害者用のトイレに押し込まれた。
「ん!」
扉を閉めた途端、噛み付くようなキスをされた。
「ん、んん?!」
訳もわからず成すがままにされていると、ぬるりとした物が僅かに開いた口から侵入してくる。
どれくらい経っただろう。
肩で息をする俺に対し、澄ました顔をした涼が至近距離に立っていた。
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