Side-K①

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Side-K①

『お幸せに。』   酷く突き放した言い方をされた気がした。  くそ真面目で可愛いげのない後輩はそれでも、俺を見放すことは今まで一度でもしなかった。  今回だってそうだ。  救いようのないほど機械音痴の俺を、僅か二日でメールを使えるまでに仕込んでくれたのだ。  本当にいつだってそうだった。あいつは。 「耕平、ちょっと車出してくれない?」 「お、おー、ちょっと待って」  奈美の声に応じ、重い腰を上げる。 「あー、また携帯なんていじって。私もあんまり使わないんだから、別に要らないって言ったのに。大体、向いてないんだから、無理しないほうがいいって」 「……なーに言ってんだよ。今のご時世、携帯なきゃやっていけないぜ」 「はー、よく言う。どういう風の吹き回しだか」  呆れた様子で「先、車乗ってるね」といい、奈美は外に出ていった。 ――どういう風の吹き回し、か。俺だってわからねえよ。  あいつが東京にいるとか言う同僚に電話だのメールだのしているのを見た時に、気が付いたら口走ってたんだ。 ― 俺もいい加減、奈美のために携帯使えるようになりたいんだよな。  本当に、何を言ってやがんだ俺は。  あいつは「それは彼女思いでなにより」と言って、携帯を買いに行くところからアドレスの設定から何からで、ずっと俺の傍にいてくれた。多分あいつの実家にいるより長い時間一緒にいたんじゃないかというくらい。 「あ。そうだ、返信……」  お幸せに。か。  お前もな!とか、送るのが普通か?でもなんか違うような。  唸っていると、外の車から奈美の催促の声が響いた。 何となく、奈美の隣で返信しづらい。いや、何でだ。おかしいだろ俺。 『ありがとな。あいしてるぜ』  つい昔の癖で、俺の面倒を終えた後のあいつに、軽口を叩くように文面を作ってしまった。 送信した後で酷く恥ずかしいような感情に襲われた。 ――恥ずかしい?何で?
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