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Side-R②
「しかし、あっついな……」
茹だるような暑さとは正にこういうことだろう。
都心と比べて空気が乾燥しているのか、それほど不快に感じはしないが、暑いものは暑い。
額から滑り落ちる汗を拭いながら、閑散としたバス停のベンチに腰掛け、ひたすら待つ。 一時間に一、二本というダイヤは、こんな田舎ではさほど珍しいものでもないかもしれない。無駄に三十分も早く到着したのが仇となっていた。
ふと、ジーンズの右ポケットから振動を感じる。先輩かもしれないと思うと少々面倒だった。
さっきのやり取りは、あの先輩からのメールで締めだと決め込んで返信していない。大体、「俺も」とか軽口で返せるほど余裕がある状態ではなかったのだ。……情けないことに。
そういえば、振動が止まらない。メールの振動とは違うような気もする。
――着信?
ポケットから携帯を引き抜くと、やはりと言うか、サブ液晶画面には『橘 耕平』の文字が表示されていた。
「……はい」
『お前ふざけんなよ、おっせえよ!』
出て早々に怒号が飛んだ。先輩の声はやけによく通るので、本当に冗談抜きに耳に突き刺さる。
「……あの、声のボリューム落としてもらえます?」
『うるせえよ!今どこだよ!』
「どこって……バス停ですけど」
『そこから動いたらぶっ飛ばす』
ブツッと音を立て、一方的に通話は切られた。動いたらぶっ飛ばすって……何事。
というか来るのか?ここに?
バス停といえば、あの辺りに住んでいる人にはここしかないだろうし、その事は分かっているのだろうが。
「つうか、バスが来るってえの」
腕時計を見れば、バスの予定時刻まであと二十分程だ。これを逃せば次は一時間半後。
この盆の帰省ラッシュ時に、新幹線の空席が確保できるかどうかは怪しいところだ。俺としては何としても、指定席を予約してある新幹線に乗りたい。
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