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Side-R③
駅に到着する五分前に先輩にメールを入れた。返信には、先輩が駅の改札口付近で待っていると言う旨が、相変わらず全て平仮名で打ち込まれていた。
「……先輩」
「――おう」
片手を挙げて、先輩は俺に挨拶をした。バスを待つ中、駅で待っているという内容の拙いメールに、情けなくも動揺してしまった。
『あいさつくらいしてけ。ばか』
まさかとは思うが、直接挨拶に行かず帰ろうとしたことを根に持たれているのだろうか?……いや、先輩はそんなタイプじゃない。
「あの」
「何だよ」
「俺、何か忘れ物しました?」
「はあ?」
「だから、――ああ、もう。……何で来たんですか、先輩」
正面きって本題を問えば、先輩は何故かうろたえた様子で、ぎこちない表情になった。その顔が、困惑と、何処か寂しいような頼りない顔に見えて、心臓を掴まれたような息苦しさを感じた。
――何であんたがそんな顔をするんだ。
「何で、って」
そんな悲痛な顔をしないでくれ。
折角、たくさん見れたあんたの笑顔を土産にして、思い出にして、帰れると思っていたのに。
「いや別に、悪い訳じゃなくて、何かあったのかと思うじゃないですか。当日いきなりバス乗るなだのそこ動くなだの、駅で待つだの、どうしたのかと……」
焦りから饒舌になる俺は、酷く格好悪い。
「――会いたいと思ったからだよ。決まってんだろ」
「……は……?」
「だからっ、お前に、会いたいと思ったからだよ!っお前、ふざけんなよ!一度だって恥ずかしくて死にそうなのに、二回も言わせてんじゃねえよ!!!」
「ちょ、先輩、声でかい!」
田舎とは言え、この時期人は多い。しかも交通の中枢である場所で大の男二人が妙なやり取りをしていれば、自然と行き交う人の視線を集めてしまう。
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