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「と、とにかく……あまり時間は取れませんが、場所を変えましょう。会社への土産買おうと思ってたんで、歩きながらでも」
「お前は何でいつもそうなんだよ」
「え?」
場所を移そうと促す俺に対して、先輩は全く動く気配がない。元々人の目を真っ直ぐ見て話す人だとは思っていたが、今はその目が酷く不安げに揺れている。
「お前はいつもいっつも冷静で、俺が一人で上がったり下がったり。さっき俺が言ったこと無視するつもりかよ?」
今日はあんたの軽口で、心臓に負担を掛け過ぎている。
これ以上俺を揺さ振らないでほしい。そんな事はとても言えない。
「……俺に会いたいと思ってくれたのは嬉しいですよ。なんだかんだ久しぶりの帰省ですし、先輩に会うのも成人式でこっちに戻って来た日以来ですから」
チラと横目で腕時計を確認すれば、発車時刻まで一時間に迫っていた。
「先輩、とにかく移動しましょう。来てくれたのは嬉しいんですけど、俺、時間が」
「帰るなよ」
先輩が俺の服の裾を掴む。
「帰るな」
そんな、今にも泣きそうな顔で俺を見上げないでくれ。
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