3427人が本棚に入れています
本棚に追加
蓮くんの立ててくれた予定通り、私たちはカフェでお昼を食べたあと近くを散策することにした。
秋の観光シーズンだからどこへ行っても人が多いが、紅く色づいた山々を見ればこれだけの人が来るのも頷ける。蓮くんと観光客に混じって写真を撮ったりお土産屋さんを覗いたりしながら、渡月橋を渡って川沿いを歩いた。
「あんまり興味無かったけど、やっぱり紅葉って綺麗だねぇ」
「興味無かったんですか? 楓なんて秋生まれ丸出しの名前しといて」
「何よそれ! どうせ安直な名前ですよーだ」
「悪い意味じゃないですよ。可愛いじゃないですか、楓って」
僕は好きですよ、と微笑みながら言われたら、嫌でもどきどきしてしまうからやめてほしい。
何だか今日は駄目だ。蓮くんの言動すべてにときめいてしまう。もう末期かもしれない。
「楓さん、何か今日は大人しいですね。ワンピースのせいですか?」
「なっ……そ、そんなに私がワンピース着たらおかしい!?」
「やだなぁ、すぐケンカ腰になるんだから。あ、ここの道入りましょうか」
私の言葉をのらりくらりとかわしながら、蓮くんは公園の中の細い道を辿っていった。公園といってもほぼ山の中みたいなものだから、落ち葉が積み重なった土の上を踏んで慎重に歩く。パンプスじゃなくてショートブーツを履いてきて正解だ。
「ね、ねえ蓮くん、この道大丈夫? なんか登山みたいになってるけど」
「大丈夫ですよ、そこまで険しくないから。もう少し歩けますか?」
「うん、歩けるけど……どこ目指してるの?」
「それは、着いてからのお楽しみです」
出た。蓮くんお得意の焦らしプレイだ。プレイじゃないけど。
お決まりの台詞にため息をつきながらも、蓮くんの見せてくれるものを楽しみにしている自分がいる。彼がこう言って期待外れだったことは一度もないし、外れたとしても蓮くんがいれば結局のところ何でもいいのだ。
そんなことを言ったら彼に悪いから言わないけれど、美しい景色や美味しい食べ物だって、誰と一緒にいるかで変わってくるものだから。
最初のコメントを投稿しよう!