第一章 ついてない私と、仏像男子

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 古い木と線香が混じったような不思議な香りの中、私は受付でもらった小さなパンフレットを片手に呆然とたたずんでいた。  少し薄暗い建物の中には、これでもかというほどたくさんの仏像が立ち並んでいる。パンフレットを開いてみると、ここは講堂と言う場所で、この仏像たちは立体曼荼羅とやらを表現しているらしい。ぶっちゃけどういう意味だかよく分からないけれど、私はその仏像たちに圧倒されていた。  でかい。真ん中の仏像は特にでかい。  両手を胸の前で合わせて何やらポーズをとっているその仏像は、ただじっと虚空を見つめていて、信心深くもなければ歴史に詳しくもない私からしてもどことなく有難みを感じた。この人、というかこの仏像なら、くたびれた私を救ってくれるかもしれない。とりあえず拝んでおこう。  両手を合わせて目をつぶってから、私は必死に願った。仏像に願い事をするのは間違っているかもしれないけれど、とりあえず言うだけ言ってみようと思った。何かいいことありますように、と。  そうやってビームでも出せそうなくらい必死に拝む私の横で、誰かがくすっと笑ったような気がした。  目を開けて横を向くと、一人の男の子が私の方を見て確かに笑っていた。  うわ。可愛い顔。天使かよ。  失礼な話だが、私は仏像よりもその男の子の方に見入っている時間の方が長かったと思う。だってやっぱり、生身のイケメンほど私みたいなくたびれた二十代後半女性を癒してくれる存在は無いのだ。  手を合わせたままじいっと見つめてくる女に危機感を覚えたのか、その可愛らしい顔立ちをした男の子は居心地が悪そうに咳払いをした。 「あっ……ご、ごめんなさい」 「いえ。僕の方こそすみません、一生懸命拝んでいるのに笑ったりして」 「……やっぱり、笑ってたんだ」 「ふふっ、ごめんなさい。だってあなたみたいな綺麗な女の人が必死に拝んでるの、珍しくて」  綺麗な女の人だって。可愛い顔してなかなかお口が達者な子だ。  明らかに私より年下の彼は、ラフなTシャツにデニムを着こなして小さめのボディバッグを背負っている。大学生くらいだろうか。
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