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そんな大事なことをあの仏像に賭けていたのか。
いや、蓮くんは私に賭けたのだ。告白するに足る人間かどうかを、あの質問で見極めようとしていた。
「……ずいぶん、身勝手ね。もしはずれてたら、もう私とは会ってくれなかったんだ」
「ごめんなさい。試すようなことして」
珍しくしゅんとした様子で私を見つめる蓮くんは、やっぱりどこからどう見ても可愛かった。出会ったのはついこの前のことなのに、もう随分と彼と一緒に過ごしているような気がする。
天使のような見た目にそぐわない中身を持った蓮くん。変態でゲスくて、ついでにずる賢い。でも、それを打ち消すほどの優しさを持っている蓮くんに、私は一つの質問を投げかけた。
「……どうして、私なの?」
そう尋ねると、蓮くんは驚いたように目を剥いた。予想外の質問だったらしい。
私自身、こんな女々しい質問をする自分に驚いている。こういうことを聞く面倒な人間は苦手なはずなのに。
どきどきしながら返事を待っていると、少し考え込むような仕草をしてから蓮くんは口を開いた。
「秘密です」
「……は?」
「言いません。言っちゃったらつまんないじゃないですか」
「つ、つまんなくないよ。だって私、蓮くんに好かれるようなこと何もしてない。好きになってもらう理由が分かんない」
「んー、じゃあこうしましょう。理由は無しってことで」
「はあ!?」
そんな解答で納得できるわけがない。
「私のどこが好きなの?」という質問に「特にない」と返されたようなものだ。
「それより、早く返事くださいよ。頑張って告白したんですから」
「なっ……そ、そんな勝手な」
「じゃあ僕のこと振るんですね。良いように体だけ弄んでポイするってことですか」
「ひっ、人聞きの悪いこと言わないでくれる!?」
「じゃあ付き合ってくれますか?」
まるで誘導尋問だ。本当にたちが悪い。
でも、私は気付いていた。この誘導尋問が、蓮くんの優しさゆえのものであると。
無駄にプライドの高い私が、付き合うつもりのなかった年下の男の子と付き合わざるを得ない状況を作ってくれているのだ。それなら、私のするべき返事はたった一つ。
「……しょうがないから、付き合ってあげる」
そう言うと、蓮くんは今まで見た中で一番可愛くて綺麗な顔で笑った。
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