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完璧なデートと、曖昧な関係
バスに揺られながら暇つぶしにSNSをチェックする。大学時代の友達の「結婚しました」という報告にいいねボタンを押して、深い深いため息をついた。
同級生がどんどん結婚していって子どもだって産まれているというのに、私は何をやってるんだろう。
一週間前の土曜日、私はお寺で出会った大学院生の蓮くんと関係を持ってしまった。しかも私にとっては一晩限りの火遊びのはずだったのに、彼は当たり前のように次の約束を結んできた。「来週の土曜日は空いてますか?」と。
断ることもできたはずなのに、私はこうして真昼間から蓮くんとの待ち合わせ場所に向かっている。この真昼間に集合というのが私のハードルを下げたのだ。夜、彼の家やホテルで会おうなんて言われたらもちろん断った。うん、たぶん断った。
それなのに彼が待ち合わせ場所に指定してきたのは、淫靡とはかけ離れた場所だったから。
「あ、楓さん! こっちこっち」
待ち合わせ場所は、三十三間堂だった。
仏像や歴史に疎い私でも知っている有名なお寺だ。なんだかよく分からないけどとにかく仏像がいっぱいあって、お正月には弓道の大会かなんかが行われていてニュースで取り上げられているのを見たことがある。
観光客でごった返している門を抜けたところで、チェックシャツにベージュのジョガーパンツという出で立ちの蓮くんが手を振って待っていた。
「……すごいね、蓮くん。ピンクのチェック柄なんて私、人生で一度も着たことない」
「え?」
「あ、ごめん。ピンク似合うなぁと思って」
「そうですか? ちょっと照れくさいですね」
そう言ってはにかむ蓮くんは、やっぱり犯罪級に可愛い。しかし私はもう知っている。
この男が、天使の見た目に仏様の心を持った好青年──ではなく、とんでもないゲス野郎であるということを。
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