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遊佐忠仁は、知る人ぞ知る天才美容整形外科医である。 美容整形に関しては何をやらせても世界有数の腕を持っているとの評判だが、特に抜きん出て得意としているのが、アンチエイジング、いわゆる若返りの施術である。 人は、地位や名誉、資産などでそれなりの成功を納めて、他に欲するものがなくなると、たいてい最後に求めるものは若さである。 そのため、遊佐の顧客は、政財界のお歴々から芸能界の大女優たち、はたまた国内のみならず海外の高貴なる方々まで、とにかくあらゆる分野の一流どころを幅広く網羅している。 医者としてはまだひよっこ扱いされるようなごく若い頃から、彼はその頭角をメキメキと顕し、あっという間に世界一予約の取れない男としての地位を固めていった。 それには、彼の完璧な美しい造りの顔が大いに役に立った一面もある。 美容整形にかかる患者、或いはお客様は、遊佐のため息が出るほど整った顔を見て、自分もそんな顔に近づけるのでは、と淡い期待を抱くからだ。 なんにせよ、そんなふうに今の地位を確立した現在の彼の資産は、世界の超一流IT企業のCEOにも並ぶほどで、小さな国の国家予算を軽く凌ぐほどあるのではないかと噂されている。 しかし、その一目で見る者全てを魅了する完璧な容姿を持ち、超一流の人間だけが持つ王者のオーラ全開のカリスマの中のカリスマであるにも関わらず、全くマスコミに騒がれることもなく静かに生活しているのは、彼の顧客たちが皆、遊佐がマスコミに取り上げられそうになると必ず、あちこちの筋から圧力をかけて企画が闇に葬られるという、遊佐にとってはかなり都合のいいシステムが存在しているからである。 美容整形というデリケートな分野だから、できれば自分が遊佐の顧客であるとは知られたくない者が多いのだ。 遊佐が注目され、そこから自分たちの秘密がバレてしまうのを、彼らは好まないわけで。
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