それは泡沫の……

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 一つ一つ、確認していく。歯は磨いた、爪も切った。お土産だって買ってきた。今日は一日ニンニクを避けて、ブレスケアも飲んでおいた。制汗スプレーも使った、耳掃除もした、鼻毛が出ていないかも確かめた。 「これで……いいよな……」  ホテルに入って30分、一体何度目になるだろうか? またも俺は鏡の前に立った。口を開いて歯を確認する。舌を出し、顔を傾け、それが済んだら少し離れる。何の変哲もない、スーツ姿の青年が一人。鏡の中に写っていた。  しばし一息。とソファーに腰かけたところで、危うくあることを思い出す。弾かれたように立ち上がったが、しかし。足が前に出なかった。出したく、なかった。 「……っ!」  首を振って、頬を叩いて。重い足を強引に踏み出す。灰皿の置かれたサイドテーブルの前に立つと、懐から長財布を取り出した。普段よりほんの僅かに厚い財布から、数枚の紙幣を抜き取っていく。  金額なんて確かめるまでも無かった。もう、すっかり覚えてしまっていたから。覚え込むまで、延々と繰り返しているのだから。零れそうになったため息を飲み込んで、いつも通りの枚数をサイドテーブルへ。空の灰皿を重し代わりに乗せると、俺はすぐさまソファーに戻った。
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