乙女は恋をしていた

2/9
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「何時だと思ってんの」 後ろから突然声をかけられ、 真樹は反射的に立ち上がり、振り向いた。 23時の公園は思ったより暗く、 よく目を凝らしてみないとそれが誰だかわからない。 見慣れた顔が月の光に照らされた。 「なんだ、智くんか」 アルバイト帰りらしき幼馴染の顔に少し安心し、 真樹はベンチに座りなおした。 「なんだとはなんだよ」 と口を尖らせた智も、隣に腰を下ろした。 「こんな時間にどうしたの?」 座るや否や、 智は急に心配そうに眉を下げ、聞いてきた。 真樹より4歳年上の智は、今年で22歳。 高校生の真樹からしてみると立派な大人なのだが、 まだ幼い子どものようにコロコロ表情を変える。 「さっき、ここで失恋したんだ」 と、できるだけ明るい声で言った。 「失恋した」と言った自分の声は、 笑ってしまいそうなくらい明るかった。 案の定、智は「そっか」と、 下がった眉尻をもっと下げて呟いた。 数時間前、 真樹は2年と5か月付き合っていた彼に 別れを告げられた。 それはもう、あっさりと。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!