迷える客を食え

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「……ふっ。手当は出せんがお前の部屋は用意できる。安心しろ、広いぞ。週休は1日2日か、仕入れがあると少し変わるが基本は1日5時間勤務でどうだ。ボーナスは…よくわかんらねえから後で考える。でなんだっけ、給料は売り上げによって出来高だ。一個も売れない時は基本給、売れたらその分加算だ。代わりに好きな時に長期休暇はとっていい。販売業、小さい店だが生涯雇用だ」 「基本給は!」 「いくら欲しい。言い値で対応できるだろう」  スーツ男は小難しい顔でうーん、とうなる。店主はまだ心配そうにそわそわしている。 「おい武器屋、冗談はそれくらいにしとけよ。仕事なんて人間にとっちゃそれなりに深刻な問題だぞ。それをからかっちゃ人が悪い」 「ずいぶん人間の肩もつじゃねえか。怪物なりに誠意ある提案をしてるつもりだ」 「…おいおい本気なんて言うなよ。人間だぞ」 「人間が必要なところにいいカモが来た」 「カモなあ」  電球頭がゆらりゆらりと左右に振られる。やれやれ、か。俺の言い出したらきかない性格を店主はすでに知っている。 「うちへ来るか」  尋ねるとスーツ男はケロリと笑った。 「そーんな都合のいい話…はは、あったらぜひ」 「あると言ったら?」 「ははっもう。だから、ぜひ。え、じゃあ約束してくれます?僕を雇ってくれるって…なあんて」 「ああ、約束してやる」 「あははっ!しゅーしょく決まっちゃったー」  眠ってしまいそうにテーブルに崩れたスーツの男はにへら、と小指を差し出す。約束、と俺の顔の前で振り回されるその指を捕まえる。 「おい武器屋…」  最後に店主が止める声を無視して小指を絡ませる。     
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