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ニヤつきながら会計用カウンターの椅子に座る。店の天井は決して低くないが、こちらの背が高すぎるのでようやく天井と距離を置けると気持ちばかりの程度たが心地よい。
「さて…」と呟く。と同時に店の扉が開いた。鳥の人形の鳴き声が来客を告げる。ここから扉は見えないが、聞こえてくる足音はカツカツと高らかだ。心当たりのある気配に苦笑する。
「ご無沙汰ね」女の声がする。
「久しいってほどじゃないだろ」
中世の甲冑の裏から影が躍り出た。黒いワンピースに黒髪の猫によく似た顔立ちの女が仁王立ちしている。
「お久しぶりよ?あなたにとってはどうだかしらないけど。私にとって2ヶ月ぶりはだいぶ顔を合わせてないことになる。我が師コランドプランシーが生前通っていたというこの店を見つけて以来2年間、私は週に一度はここに通ってた」
「ああ、まあそうだったかな」
変わらない説明口調に営業用の笑みを作ると、猫の目があら、と見開かれる。
「そうよ。耄碌したの?なら今日こそ歳がいくつか教えなさい」
「…気にするようなことじゃありませんよお客様」
矢継ぎ早な挨拶に頭を掻く。人間と言ってもこちらの事情に精通したこの女"プランシー"にはどうも人外と同じ扱いをしてしまう。
しかも彼女は明朝営業唯一のお得意でかなり雑談が多いがものもよく買うので面倒だが追いだせもしない。プランシーが猫の目を細める。
「待って、酒くさい。そんなに飲んだの?参考までにどれほど飲んだか教えてくれない」
プランシーが熱心な顔でレコーダーを取り出すのを人差し指をひとふりで止めさせる。
「魔法はずるい!」
「飲みすぎたのは俺じゃなく従業員だ」
「はあ?従業員?」
ソファで伸び切った人型の毛布を鼻で指す。
「え、そんなに人手が足りてなかったの」
「足りてはいたが規則上雇うことになった」
「案外真面目ね」
「案外じゃない」
「アンガイよ。だって魔法具の開発のためなら片っ端らから規則破るくせにそれ以外は律儀じゃない」
「誰から聞いた」
「私情報屋なんだから知ってるよそれくらい。見縊らないで失敬ね。でも従業員は初耳……もしかして、人間じゃないでしょうね」
プランシーは口をムッとして毛布を睨む。俺は鋭い指摘に内心ふ、と笑い毛布に向かってどうぞご自由にと手を振る。
「だって急な人員調達なんて時間に関する魔法具の取扱い条項しか…」
プランシーは憶測を呟きながら颯爽と歩き、豪快な手さばきで吸音毛布をはがした。
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