祝いの酒

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 オレンジ色のフィラメントを不安定に点滅させ、ようやく口をきいた店主は不服そうだ。しかし首から上が電球のその男はつるりとした顔を微笑ませる。特に気を悪くしたわけでもなさそうに仕方ない客だ、と俺を笑う。 「うちの名物は電気ブランだと言い続けてるのにな」 「好きなもんを飲みに来たのに客に指図する奴があるか」 「俺の店だ、俺の好きにするさ」  キュッキュ、と丁寧な音を響かせ店主の白い手袋の手が空きグラスを磨いていくのを目で追う。職人の手は俺にとって最高の酒の肴だ。  どんな職人の手にも魂が宿っている。それは信念であり、積み重ねた生き様であり、夢であり挫折、同時にただ今ここにある現実だ。  そのとりどりの魂を垣間見ようと想像を巡らせ、時おり喉に酒を流し込むのが俺の好きな時間なのだ。  そうしているうちに何か気に食わない気持ちがゆるゆると緩むと商談の利点にようやくわくわくとしてきた。 「いいことがあったな」  クロスのリズムを変えず店主が言う。ふわりと照度を下げたフィラメントでいたずらっぽく笑ったように見える。 「まあな。時空を歪ませろと。俺に来る仕事はそんなもんばっかだ」 「あんたは協会という協会をおちょくるのが本業なのか」 「別に。時刻管理協会には確かによく世話になるがおちょくっちゃない。俺は気に食わない規則は片っ端から守る気がないだけだ。今回も好きにやる」 「そんなだから〈手〉を持っていかれるんだろう。魔法使いの商売道具だろ掌は」     
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