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頼んでいないビールのおかわりが差し出される。直径10㎝ほどの風穴の開いた手でジョッキを受け取ると手の甲のあるはずの部位から黄金の気泡が見えた。
俺はニヤリと笑う。
「俺を怪物じゃなく魔法使い扱いするのはあんたくらいだよ」
「お互いこんな顔だからな。たとえ俺が今ここで事切れても人が死んでいると思ってくれるのはお前くらいだろうし」
悲哀に満ちた店主のブラックジョークにぎゅっと口角を上げて笑ってみせる。
まったくだ。こんな顔じゃろくに街に融け込めやしない。
どの時代のどこへ行っても俺らのようなものに居場所はない。だからここのように魑魅魍魎様ご用達の社交場に入り浸りになる。そうこうしている間に店主とはすっかり友達だ。
「まああんたよりは俺の方が愛嬌はあるかな」
言ってパカパカと点滅する電球頭に俺は長い鼻を鳴らす。
硬く乾いた青白い肌。アリクイのように長く下に垂れ下がる口元。落ちくぼんだ目に眼球はなく顔の上半分に常闇が二つ。下顎もいつかどこかに忘れて、頭に毛がない代わりに白い顎鬚が顎あたりに伸び、耳もない。
そんな容姿にみな俺を怪物という。
「あんまり言うともう顔を出さないぞ」
俺の怪物頭が呆れ顔をすると電球頭が肩をすくめる。
「縁起でもないやめてくれ。お得意様のためにこうして貸切にまでしてるっていうのに」
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