迷える客を食え

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 見える者にしか見えぬ〈出入り口〉は国のいたるところにある。しかし見えない者にはそれはただの暗がりや壊れた窓、開かずの扉に見えるらしい。  店自体は新宿にあると店主は言うが店のある場所には出入り口がないため、結局なにかと見える者しかここへはたどり着けない。  それがどうしてただの人間なんかが迷い込んだのか。  電球頭に腕を掴まれたスーツの男が顔を上げる。なぜかズボンを膝までたくし上げ傾いた身体で電球頭をしげしげと見上げる。 「んあ、ハロウィンか。綺麗らなあ…」  スーツ男はろれつの回らない口でのほほんと言い、電球の曲線を描くガラスのほおに手を伸ばす。 「ツルツルしてるなあ。ツルツルだ…えるいーディーか、熱くないもんなかっこいい…すごいなあ…」  スーツ男は店主の顔を撫で回すだけでなくついには電球にほおずりをし始めるのでフィラメントがバチバチと妙な放電をはじめる。これには笑いをこらえきれず思わず吹き出す。  なにやらむにゃむにゃと見当違いな褒め言葉を並べふにゃりと破顔するスーツ男に電球頭は今にも割れそうな激しい放電で震えていた。  怒っているのか恥ずかしいのか、見たことのない顔を肴にニヤつきながらグラスに残った電気ブランをちびりと飲む。こいつはいい。 「おい、お前。俺と飲むか」スーツ男に声をかける。     
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