迷える客を食え

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「ぜーんぜんっ!大丈夫じゃありませーん!」 「ならうちで働くか」  俺の言葉に驚いたのはスーツ男ではなく電球頭の方だった。 「おい武器屋それはまずいんじゃ」 「まずかない。それが時刻管理協会がなあ、俺には無理だろうって算段で人間が入れる魔法具の小売店に営業条件を増やしやがった」 「なんだそりゃ」 「人間を一人、店に置けってな」 「無茶苦茶言うもんだ」  苦笑を表すのに電球頭を斜め下に傾げ店主はつづける。 「だいたい"時刻管理"協会だろ?なんで小売店の営業条件なんて」 「時間にまつわる魔法具の取り扱い許可さ。破ったやつは営業停止を食らうってわけだ」 「ああそういうわけか」 「ただでさえ一般向けの営業は明朝の間しか店を開けないのにこれ以上規制されてみろ、俺だってムショクだ。野垂死にだよ。ムショにも入れやしない。人間はいいよなあ一人でも殺しゃ住むとこも食べ物を与えてもらえる。俺なんて何人殺そうが」  言いかけると店主のフィラメントが神経質に爆ぜた。 「おいやめろ。俺をお前と一緒にするな。それに、その自傷な物言いもだ」 「……俺だって言うほど殺しちゃないさ。だが武器ってものの性質上な。それに。人なんてみんな手を下すまでもなく瞬きする間に死んでいくもんだ」 「……お前は、寂しくないか」  珍しい問いかけに俺は口の端を上方向に歪める。 「寂しかないさ。俺だって永遠に生きられるわけじゃない」  多少、ただの人より寿命は長い。その分短命な人間より見送る相手は多いだろう。 けれどそれよりも、時の流れの中を自由に行き来することで知り得た過去や未来に対して勝手に感傷に浸ることの方が多い。そういうのが辛くないかと問われるなら、否定できない。  ただそれは店主にとっては未知の領域の心境の話だろう。俺以外の誰に取っても。  落ちかけの線香花火のようにフィラメントが小さくぱちり、となる。 「……ああ。そうだな、そうだ。悪かった」 店主がバツが悪そうに微笑む。 「いや、いいさ」  二人の言葉が途切れると、その瞬間を嗅ぎつけたようにスーツ男が睡魔に襲われのけぞるほど後ろに倒れた頭をぐい、と肩の上に引き戻す。 「っほんとに雇ってくれますか?ぼく住宅手当は?週休とボーナスは?給料の上がり幅は?ブラックはごめんだっ!ごめんですよ!…ぼくは人間らしい生活をするんだ!」     
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