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綾姫は樫飯さんに似ている、という言葉を聞いた瞬間、オレの脳裏にも綾姫の姿が蘇った。美しい着物を纏った若い美貌の姫君。たしかに目の前の樫飯さんに似た、清楚な美人だ。オレは、いや、オレと言うか、鷹之丞は、綾姫にずっと恋い焦がれていたのだった。
「思い出した」
「あれ、田中くんも思い出した?」
「樫飯殿、そなたは綾姫によう似ておる。淑やかさに加うるに、凛とした佇まい、まとう気品までも瓜二つじゃ」
「突然始まっちゃったよ、ゴッコ遊び」
そうのたまう権藤とやらをジロリと睨みつけ、
「ゴッコではござらぬ。拙者はまごうかたなき武士、桂鷹之丞にござる」
いまこそワシは全てをはっきり思い出しておった。そして傍らに所在なく立ち尽くしている清志丸に目を向けた。
おのれ、何を空とぼけた顔をしておるか。おのれが鬼畜の所業をば、まさか忘れたとは言わさぬぞ。
「清志丸!」
大声でそう呼ばわり、相手に詰め寄ろうと立ち上がりかける。
「田中くん、声が大きいよ!」
そう言いながら、当の綾姫は、掌のなかにもった白い手札のようなものを指で叩いたりなぞったりしていたが、ふと顔を上げ、
「ねえ、桂鷹之丞でググっても、情報が出てこないよ? 架空の人物なの?」
愚愚るとはいかなる呪文か知らぬが、ワシのことが系図にも文書にも一切出てこぬのは当然。
「ワシのことを調べても無駄じゃ。なにしろワシは、いなかったことにされておったのでな。それはそれとして、清志丸!」
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