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「田中、ごめんな」そう言い残して、部室を出ていった。
お前、清志丸なんだろ、という言葉は胸のうちに残った。
「高橋くん、急にどうしたんだろ?」
「さあ、トイレじゃね?」
突如脳裏に鮮明な記憶が蘇り、オレは、反射的にガバッと上体を起こそうとしてまた気が遠くなり――気がつくと、なにかひんやりとして柔らかいもののうえに頭を載せて寝ていた。
おお、この感触はもしや!
「どさくさに紛れて膝枕してもらってるー」と権藤が冷やかす。
少々冷やかされたぐらいでこの至福を手放す気にはなれない。
これで権藤さえいなければ、絶好の告白のチャンス――鼻血出して鼻栓詰めてる時点でありえないわ。
はーあ。今日も告れずじまいか。
オレは目をつぶったまま、具合が悪い体を装う。
せめてこの至福を一秒でも長く味わおう。ああ、よきかな、よきかな、このまま死んでもいいかも。目を閉じたまま意識を後頭部に集中しようとしたが、エロ妄想の炎に水をぶっかけるように、オレの意識を陰惨な記憶が塗りつぶしていった。
あの日桜尾城が陶軍の残党に襲撃され、女子供まで鏖の目に遭おうとしていた。
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