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「吉兵衛様が亡くなったときそのあとをあなたに代わって背負ったわたくしの兄は、わたくしと吉兵衛様の間にあったことがよそに漏れることを懸念して、わたくしを鎌倉の別荘から退けようとしました。そこでわたくしは兄の計らいの下、銀座のカフエーの給仕として住み込みで働くようになったのでした。決して無下にしたのではなく、兄はたびたびわたくしに会いに来て衣食住の心配を尽くしてくれたのです。だからわたくしはたしかに何不自由なく暮らしていたのですが、しかしその心中は大変に寒々しいものでございました。失った恋はもはや日々の憂鬱しかもたらしませんでした。わたくしは吉兵衛様の影を日夜瞼の裏に思い描いてはやり場のない深い悲しみに悶々と過ごしていたのでございます」
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