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 達夫はその手紙を読み終えるとそばにいた忠実な召使を一瞥した。彼は表情を硬くしたまま、しかし何も語ろうとはしなかった。  達夫はなにを悔やめばよいかわからなかった。秘めたる思慕をついぞ打ち明けなかった己が悪人なのか、達夫の思いを取り違えた由紀子が哀れなのか彼には計りかねたのであった。しかし何を思えども、愛しい女性はすでにこの世にないのであった。ただ目の前に、己の生を責め続けた彼女が、確かにこの世にいたことを示す一通の手紙があるだけであった。
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