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「酔ってきたみたい!酔った勢いで聞いても良い?」
「なんだい?」
「今夜は帰らなくて良いの?」
「どうして?」
「愛する奥様が待ってるのかな?
と思って」
「結婚してたら、夜に出歩かないで真っ直ぐ帰るよ」
「そう。じゃあ、今夜は帰らなくても大丈夫って意味なのかしら?」
「あ、いや。
今日は同級生と、終わった後に打ち上げの予定があるんだよ。でも別に強制参加じゃないから行かなくても構わないんだけどね」
「嘘」
「え?」
私は男のジャケットのポケットの上から手を当て、耳元で囁いた。
「指輪あるでしょ?
嘘つきは浮気の始まりよ?御馳走様。
楽しかった」
男の耳へ優しくキスすると、私は店を出た。
まだ止まない雨。良い感じのバックコーラスだ。
Barの出入口の軒下に立ち、バックから肘迄ある黒い手袋を出し、不自然に見えない様に両手にはめると私は待った。
三十秒経過。そろそろかな?
Barの扉が開いた。
「良かった!傘、無いだろ?」
さっきの男が傘を片手に出て来た。
「傘を届けに来てくれたの?」
「いや、違うよ。
すまない。嘘をついてしまって」
「傘は口実ね。
いいの。謝らないで、気にして無いから。貴方は女を殴る様な人じゃないし、とても優しい人よ。奥様は待ってないの?」
「女房は、俺が夜出掛ける時は必ず実家に行ってるから問題無いよ」
「そう」
「タクシー呼ぶよ」
「必要ない」
せっかく一度チャンスをあげたのに、追い掛けて来るなんて、馬鹿な男。
私は男の腕を取り、雨の中へ入って行った。
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