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英雄
「ちょっと!今朝のニュース見た?」
仕事中にも関わらず、平気で話し掛けてくる隣のデスクの先輩。
「私、朝が弱くてテレビ見てる時間が無いんですよ。何かありました?」
「また連続殺人よ!これで四人目!しかも既婚者狙いの!」
「またですか?!今度は何処で?」
私は驚くリアクションをし、先輩に聞き返した。
「うちの会社からだと……五キロ位かしら?離れた〇〇市の少し郊外にある、ラブホの近くらしいわよ」
「〇〇市ですか……」
「既婚者の癖に、女とホテルでも行こうと思ったんじゃないの?!汚らわしい!」
先輩は渋い顔をし、目の前の汚ない虫でも振り払うかの様に右手を激しく動かした。
「奥様、可哀想ですね……。
早く捕まると良いですけど」
私は、今度は悲しげに呟くと先輩は
「私は捕まらないで欲しいわね!」
と、強い口調になった。
「どうしてですか?連続殺人犯ですよ?!」
「貴女、知らないの?この犯人、今じゃ英雄扱いよ?!」
「英雄?」
「ネット炎上してる程なの!
ニュースでも、インタビューでモザイクと声変えられてるけど、旦那が殺されたって言うのに『うちの旦那の女癖には、散々悩まされてました。正直言って居なくなってスッキリしてます』とか『主人の不倫には目を瞑ってましたけど、限界でした。犯人に感謝します』
って、自分が容疑者扱いされる様な発言してるけど奥さん達には、完璧なアリバイがあって釈放よ」
「そうなんですか?でも、殺人犯を『英雄』って……」
「噂じゃ闇サイトで『私の主人を殺してくれませんか?謝礼出します』なんて依頼があるらしいわよ?」
「凄い!私、機械音痴なんでサイトとか良く分からないですけど……」
私は眉間に皺を寄せ首を傾げた。
先輩は両手を頭の後ろで組むと
「あー!うちの旦那も居なくなってくれないかしら」
と椅子に仰け反った。
「え?先輩の旦那さん、浮気してるんですか?」
「冗談よ!」
先輩は笑って誤魔化した。
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