1章

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それ以降、キメラの数は増えなかったが、世界には文化と呼べるものはもう残ってはいなかった。 だがそんな中、わずかに生き残った人々は国を作った。 その国の名はストリング帝国。 アンとリードが今いるこの国のことだ。 この荒廃した世界で、唯一高度な科学力を(ほこ)る国。 高い城壁に囲まれ、侵入者には壁につけられた電磁波が放出されるため、キメラも入って来れない。 (あるじ)であるストリング王は、キメラに制圧された他の地域を解放(かいほう)するために軍隊を作った。 それでも、もう何度も城壁の外に出ているが戦いは終わらず、数十年も続いている。 この国の兵士であるアンとリードは、部隊隊長から休暇(きゅうか)を言い渡され、その帰りだった。 「まあ式もだけど、楽しみだよな」 「なにが」 「いやさ、グレイの作るメシは旨いんだもんよ。いまでもたまに食わせてもらってるけど。あれ食っちゃうともう他のもん食えねぇ」 「わかる。私はグレイの料理のせいで、軍での食事が苦痛になった」 「そうだ、料理といえば、式の後のパーティーの準備、手伝わなくていいのか?」 リードが訊くとアンが返す。 「気にしなくていい。それよりちゃんと二人へ贈る花の準備はできているのか?」 そう言われたリードは、ハッと何かを思い出したような顔をした。     
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