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獅子戸 拳 (ししど けん)
「本日付で特殊事例犯罪捜査課に配属になりました、獅子戸拳と申します。ご指導・ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願いいたします。」
ばっと、ちょうど直角に頭を下げる。すると、周囲からパラパラと疎らな拍手をする音が聞こえた。
当たり前だ。
ここは、一握りの選ばれた者しか配属を許されない最高峰の機関。何人も人がいたら、たまったもんじゃない。
「ついにここまで来たな、拳。」
「はい、陣さん。」
俺はしっかりと目を見て、差し出された陣さんの手を両手で握った。
信濃川陣(しなのがわ じん)さんは、俺の憧れだ。
俺が中学生の時だから、十五年は前の話だ。ショタコンのオヤジに連れ去られそうになっていた俺を救ってくれたのが、その時は一介の刑事に過ぎなかった陣さんだった。それから陣さんは、父親とその再婚相手の母親とあまり上手くいっていなかった俺の良き相談相手になってくれた。
陣さんはどんどん実績を重ね、ついには特殊事例犯罪捜査課の長にまで登りつめている。そんな彼に憧れて、俺は警察官を目指したのだ。
「では、他の者にも挨拶をさせようか。」
陣さんはそう言うと、視線を隅の方で丸まっている小柄な男に向けた。こちらをじぃーと見てくる瞳は、警戒心が強い猫のように、鋭い。
「彼は、見田村歴彦(みたむらつぐひこ)。彼にかかれば、闇に葬られる電子データは何もない。あと、潜入時の化粧も、彼が担当する。」
「よろしくお願い致します。」
俺がそう言って先程と同じく直角に頭を下げても、彼は反応しない。顔を上げると、申し訳程度に首を縦に動かされた。
「歴彦は、人見知りが酷いからな。慣れるまでは、我慢してやってくれ。」
陣さんはそう言って笑い飛ばしてから、さて、と真顔になって顔を見田村さんがいるのとは反対の隅に向けた。
そこには手脚の長いすらっとした男が、少し背中を丸めながら、パソコンの画面を覗き込んでいた。
「彼は、兼子清雅。ある『怪盗』の事件を主に担当している。」
「『怪盗』?」
「...よしっ、特定成功っ。」
兼子は、そう言って、勢い良く席を立った。振り向いた彼の顔は、高い身長と比例せずに小さく、造作も整っていた。
「あ、信濃川さん。『怪盗』の次の出没場所、特定しました。」
「そうか。」
「はい、また、出動の特別許可を下さい。...って、誰ですか?このカッコよくて小さい人。」
カチン。
本当に、漫画みたいにそんな音が聞こえた気がした。...なんだこいつ。ちょっと顔が良くて背が高いからって、俺が、一番気にしていることをズケズケと。
「うっさいな、ボケっ!お前に言われる筋合いはないっ。」
兼子、とか言うクソイケメンは、俺の方を見て、目をパチクリさせる。しばらくすると、あぁ、と納得したような顔をして、ふわっと笑いやがる。
「...すみません、俺、思ったことすぐ言っちゃうんで。あと、俺は身長はあるので、大抵の人は小さく見えちゃうんですよ。だから、ぐっちゃんも信濃川さんも、俺から見たら小さいので、気にしないで下さい。」
爽やかに笑っているが、全然フォローになっていない。というか
「陣さんにも見田村さんにも失礼だろうがっ。」
「おぉ、さすが期待の新星。よく、ぐっちゃんが歴彦だとわかったな。」
「...そりゃ、一度聞いたことは忘れませんから。あだ名も単純だから、すぐに見田村さんの下の名前と結びつけられましたし。」
思わぬところで陣さんに褒められて、俺は少し照れてしまう。
「なるほど、あなたが噂の獅子戸拳さんなんですね。じゃ、拳くん。俺は兼子清雅と言います。よろしく。」
俺は差し出された兼子の手をすっぱーんとはたいてやった。
「誰がお前とよろしくするかっ。あと、拳くんって呼ぶなっ。」
その呼び方は、本当に気を許した相手にしか、許していないのだ。
「...弱ったな。同じ課の仲間として、仲良くしてもらいたいんだが。」
陣さんはそう呟いて少し困ったように、だけど、楽しそうに笑っていたから、俺は兼子には、このままの態度を貫くことを決めた。
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