獅子戸 拳 (ししど けん)

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「...まぁ、ざっとこんな感じ。簡単でしょ?」 翌日。 映像を見終わった俺に、兼子は明け透けと言う。どうやら、持って行っていた小さいカバンに、カメラを仕込んでいたらしい。 「...簡単か?これ。」 「簡単簡単。まぁ、好きでもなんでもない気持ち悪いおじさんの相手をするのは疲れるけど、この後は、ケータイとかパソコンとかのデータをぐっちゃんに転送して、紙ベースのデータはケータイで写メって送れば終わりだから。」 兼子は、やっぱり飄々とそう言う。 本当に、簡単そうに聞こえる。俺は、イヤーカフから流れてくる音声が気になり過ぎて、折角綺麗な女の子たちと知り合える機会だというのに全く集中できなかったのに。少しでも、兼子の心配をして損をした。 「いや、その前が大変過ぎねーか?」 「うーん...でも、今回のターゲットはラッキーな方だよ。俺を押し倒そうとする前に、仕事のことでデータが必要だったのか、鞄からパスワードの書いた紙を取り出してパソコンに打ち込んでるのが見えたから。だから、パスワードは聞き出さなくて良かったし。ネットワーク外のデータも全部自分で持ってたし。めっちゃ楽だった。」 あくまでもあっけんからんという兼子だけれども。...俺に、できるのだろうか。 「どうする?一回練習してみる?」 なんて言いながら、ちらっと隅で丸くなっている見田村さんを見る兼子。 「練習って、化粧してないと駄目か?」 「当たり前だよ。化粧した状態で、スイッチ入るようにしとかないと。」 至極真面目に兼子は言う。 「心配しなくても、拳ちゃんは綺麗に化けられるよ。」 兼子は、ふわっと笑ってそう言った。
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