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「恋人のふりをしてくれないか」  晴樹のセリフに、俺は「は?」と間抜けな声を洩らし、目を見開いて硬直した。なにかの聞き間違いかと思い、もう一度言ってくれるよう旧友に頼む。 「だから、俺の恋人のふりをしてくれって頼んでいるんだ」晴樹は真剣な面持ちで繰り返す。 「誰が?」 「おまえが」 「なんのふりだって?」 「恋人」晴樹は端正な顔を少しゆがめて、「恥ずかしいから何度も言わせないでくれ」  眼鏡を指で押し上げてから、俺は眉根を揉む。 「念のために確認しておくけど、おまえは男で、そして俺も男だ」 「わかってる」と晴樹は迷いなくうなずいた。  俺が男だから彼女とは言わないんだろうな、と心底どうでもいいことを考えながら、どうしてこうなった、と頭を抱えたくなる。  晴樹とは中学二年からの付き合いだ。クラスがたまたま一緒になり、ちょっとした縁で意気投合し、よくつるむようになった。頭の出来が似通っていたため、高校も同じところへ進学した。  そんな晴樹から「晃彦、少し話があるんだけど。時間ある?」と声をかけられたのは、ちょうど部活へ行こうと腰を上げかけたときのことだった。やけに神妙な表情を浮かべていたから、つい気になってうなずいてしまった。いま思えばそれが間違いだったのだろう。もう少し用心しておくべきだったと後悔する。
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