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 晴樹の日記のほとんどが、俺の記述で埋まっていた。俺の挙動に一喜一憂し、気持ちを悟られまいと己を律する一方、膨らんでいく気持ちがいつか決壊するのではないかと恐れる晴樹の内面が、赤裸々に書き連ねられていた。 「これ……」  俺は思わず声を洩らす。  予想はしていた。晴樹が俺に対して、単なる友人としてではなく、それ以上の感情を内包しながら接していたことには、うっすらとだが気がついていた。もちろん、明確な根拠はなく、まさか当人に面と向かって訊くわけにもいかなかったので、結局、なあなあに済ませてしまったけれど。まさかこんな形で、晴樹の本心を知ることになるとは思ってもみなかった。 「晴樹は、あなたのことを大切な友達だと言っていました」  晴樹の母親の声に、俺は顔を上げる。 「学校の様子を聞くと、いつもあなたのことばかり話題に出して。なかなか彼女を作らないから、もしかしたらとは思っていたけど、晴樹は、よほどあなたのことが好きだったのね」  目を赤くしながら、にこりと微笑みを浮かべる。  俺はどうしたらいいかわからず、黙っていることしかできなかった。日記を握りしめる手に、力をこめる。  晴樹から恋人のふりを頼まれたとき、どうして変な噂が学校に広まらない自信があったのか、ようやくその真の意味を理解する。広がらなくて当然だ、俺に説明した事情はすべて作り話だったのだから。あいつを困らせていた女子など存在していなかったのだから。すべて、俺と恋人のふりをするための方便だったのだ。  策士め、と俺は晴樹のしたたかさに内心で舌を巻く。  それと同時に、そうすることでしか俺との距離を詰められない、あいつの葛藤の一端に触れたような気がして、形容しがたい感情が胸中にわく。
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