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「ああ、すまん、すまん。ちょっと探し物をしていたんだ」
「え? そんなに濡れて、何を探していらしたんですか? 」
「すごく大切な物だったから、つい、我を忘れて探してしまったんだ」
「まぁ、それで見つかったんですか? 」
「ああ、ちゃんと見つかったよ。命より、大切だからな」
嬉しそうなラディスの顔を見ると、リラまで嬉しくなった。
12年前の事件以来、あまり笑う事がないラディスだった。
だが、今日は久しぶりに心から笑ったラディスの顔を見たような気がした。
「早くお着換えください、風邪を引きますよ。春になったとは言え、まだ寒いですから」
「そうだな」
嬉しそうに笑って、ラディスは城の中に入って行った。
「今夜は何か暖かい物でも、作って差し上げなくては。国王様がお元気な事が、国民の幸せですから」
リラは急ぎ足で調理場へ向かって行った。
夜になり。
ラディスは部屋の窓から夜空を見ていた。
今夜の空は星がとても綺麗に輝いている。
月も満月のように煌々と照らされている。
「やっぱり、あの時の感は当たったんだな。・・・」
ラディスの手の中にある、輝く指輪・・・
それは、リムルが海で捨てた指輪だった。
あの後。
リムルとすれ違ってから、ラディスは急ぎ足で海へ向かった。
リムルが指輪を外して、海に捨てる所を見ていたからだ。
幸いまだ波が静かだったため、それほど流されていなかった為、すぐに見つける事ができたのだ。
奇跡なのか、きらりと光る物を目にして、ラディスは一目散に海へと入って行った。
そこには、貝殻に引っかかっていた指輪があった。
見つかった事に喜びを感じ、そして、神に感謝したラディス。
服は濡れて、ビショビショになってしまっても、大切な指輪が見つかった事の喜びの方が大きかった。
それに、ラディスが一番探している人が手の届くところにいると判った事が、何より嬉しかった。
「ミディアル・・・ずっと、指輪を持っていてくれたんだね。・・・でも、どして捨てたんだ? 」
夜空を見上げてラディスは問いかけてみた。
煌々しく照らされている月・・・
月は何も答えてはくれないが、なんだか優しく見守っていてくれているようである。
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