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「あれ? ここは?」
気がつくと私は、歩道のベンチに腰掛けていた。
目の前を、大勢の人々が忙しなく行き交っている。
街にはイルミネーションが飾られ、幸せそうなカップルたちが、何やら楽しそうに話しながら通り過ぎていく。
「紫音」
突然肩を叩かれ、振り返る。
そこには、優しそうな男性が立っていた。
「ごめん。急いで来たんだけど……」
その男性は、乱れた黒髪を簡単に直すと、恥ずかしそうに微笑んだ。
「良かった。断られたらどうしようって、そればっかり考えてた」
「え?」
「でも君は、来てくれた。これが答えだって受け取っても、いいのかな?」
私は辺りを見渡した。
街路樹にはイルミネーション。
鳴り響くクリスマスソング。
今日は、クリスマスイブ。
そして今日は、私たちの、初めて記念日……。
「こう……せい……さん……」
私の瞳に、涙が溢れた。
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